ウレタン禁止令

f:id:hijiritakamine:20220304101321j:plain
https://twitter.com/Lucas_Wiseman/status/1499210204952543235

というtweetに一部のボウリングクラスタが発狂している。
人によっては自分のメインで使うボールが一律禁止になる可能性もあるわけだが、あくまでも「PBA national tour」に限った話であり「プロのリスタイ禁止令」共々多くの人には全く関係のない話である。
そう一瞬思ったが、よくよくスレッドを読んでみると「バランスホール禁止令」程度には世の中に影響を与えそうな事案なので、少しまとめてみる。

そもそもの原因

f:id:hijiritakamine:20220304101347j:plain
https://twitter.com/Lucas_Wiseman/status/1499207292679561221


f:id:hijiritakamine:20220304101537j:plain
https://twitter.com/Lucas_Wiseman/status/1499223674293006337

と前後のtweetあるように一部のプレイヤーが主張する特定のボールが強すぎたことが原因ではなく、あくまでもボールの硬度の検査を通らないボールが3つあった*1ことが原因としている。
反ウレタン派による陰謀とかそういうことではない。

ボールの硬度規定とは

ボウリングのボールの規定に詳しくない方のためにざっくり説明すると、ボウリングのボールの表面硬度は計測室の温度が華氏70度〜77度で計測した際に73度以上でないといけないと定められている*2

f:id:hijiritakamine:20210902010056j:plain
アイマスP的には旧規定の72Dの方がよかった……
数字的な意味で。

この規定の大元は1973年にDon McCuneというプレイヤーがアセトンに漬けて柔らかくしたボールを持ち込んで好成績を得た*3ことに由来している。
もっとも直接の原因は「仕込み」際に有機溶剤を吸ったことによる事故があった*4ことを原因とする安全性への配慮である。
しかし、ボールを柔らかくすることによる得られるアドバンテージは大きいことから、現在に至っても硬度の規定は廃止されず残っているというわけだ。

近年のウレタンボール特有の問題?

2010年代半ばからウレタンボールの有用性が「再発見」され、ウレタンボールは再び表舞台に躍り出た。一部の特殊な環境下では好成績をあげたことから、一部の特殊な環境で投げるボウラーを対象にして多くのウレタンボールが再び販売されるようになった。
Hammerが製造しているPURPLE PEARL URETHANEもそのようなボールのうちの一つである。

f:id:hijiritakamine:20220304112123j:plain
PURPLE PEARL URETHANE
Hammer*5
国内輸入はレジェンドスター*6

このボールについて下記のような輸入元のレジェンドスター社より通達が出された。

「ハンマー社 パープルパールウレタンの硬度について」


拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
平素は格別のご厚情を賜り誠にありがとうございます。

旧EBI工場製造のハンマー社は、パープルパールウレタンがJPBAの検量に於いて硬度不足で使用が認められないと言うケースが数件確認されました。BW工場製パープルパールウレタンの発売を前に、製造元のBW社と協議を続けて参りましたが、パープルパールウレタンはEBI工場製・BW工場製を含め、USBCの厳格な検査で承認されたボールである上、この数年、PBAやUSBC等のメジャー大会を始めとした世界中の大会で最も多くのボウラーが使用し、最も多くのボウラーが結果を出しているボールであります。

しかし、リアクティブ素材のボールに比べウレタンボールは気温の変化による硬度変化が激しく、使用を続けることで硬度も僅かに落ちる傾向があり、それを把握した上で承認しているUSBCは、現在、使用後の硬度チェックを不要とする方向にあるとの説明もありました。そして上記の事はEBI製、BW製共に言える事であろうと言う事でした。

尚、JPBAを始めとする日本国内のボウラーズ団体、又はセンター大会におかれましては当然の事ながら独自のルールや規則がございますのでルールや規則に従う必要性がございます。ご理解の上、注意してご使用いただけます様お願い致します。

お買い上げの際は、上記をご理解の上、お買い求めいただけます様、よろしくお願い申し上げます。

敬具
https://ps-vega.com/?pid=113263962 より引用)

プロの競技会で使われる製造時の段階ではUSBC*7から認証を受けており、後から加工をしない限りは基本的に規定を満たしているはずである。「溶剤につける」といった不正行為をしていないにも関わらず、硬度規定を満たさないという自体が起こってしまった。
これを受けてJBC*8では、2021年7月13日付で「USBC のアプルーブリストに載っているウレタンボールにつきましては、硬度の検査はしないまま大会で使用可能」と通達を出した*9。おそらくJPBAやNBFといった他の競技団体でも同様の措置がとられ現在に至っている。
ウレタンボールの硬度が下がる原因についてUSBCはウレタンボールは使用を繰り返すことで硬度が下がることがメーカー問わず確認されており、どのボールブランドのウレタンボールでも起こりうる現象であるとコメントをしている*10。ウレタンボールは基本的にオイルを吸わないため、寿命も現在の他のボールに比べて圧倒的に長い。よって製造年で縛りをかけることで経年劣化して規定にそぐわなくなったウレタンボールの使用を防ぐといった意図があると考えられる。

ウレタンボールは全面的に禁止されるのか

近年のボウリングのボールの規定は曲がりを抑えてスコアも抑えようというのが一つの流れにある。ボウラーの意図しない要素が多分にあるとはいえ、硬度が低下することでボールのパフォーマンスが上がるのであれば、競技レベルでは禁止の方向に進んでいくと考えることが自然である。
しかし、実際にはそこまで厳密に禁止はできないと考えている。近年のボールの素材の中心はリアクティブウレタン*11と呼ばれるウレタンをベースとした樹脂素材である。そもそもの問題としてピュアなウレタンとリアクティブなウレタンの境界線をどこに置くのかというところに問題がある。
また、単純にハウスボールの材質やコストを考えるとウレタン素材のボールそのものを禁止にはできない。安価で乱暴な扱いをしても割れにくいウレタン素材に変わるハウスボール用の材料がない以上、ウレタンボールを投げることを禁止することはボウリング場の経営的にもつらい。
そういった背景を考えるとウレタンボール自体が禁止になることはないと思う。ただ、特定の銘柄のボールがUSBCの認証から外れるといったことはあるかもしれない。
USBCの認証の有無については正直一部の競技ボウラーと呼ばれる層にのみ関係のある話で、それ以外の層には全く関係のない話である。2020年の8月からボールの規定が変わったが、規定されていない限りは、2020年8月までの規定のボールで投げても問題にならないのと一緒である*12
だから、「バランスホール禁止令」と同じくらいの影響しかないのではないかと個人的には考えている。

*1:だたし、この3つは3個なのか、3種類なのかはTweet上からは不明

*2:Equipment Specifications and Certifications Manual 2021年01月版 P5 よりBOWL.com | Forms, Manuals and Bulletins

*3:#44 Don McCune Uses Juiced Bowling Balls "Soaker" That Leads To Ball Regulations - PBA Top 60 Most Memorable Moments - BowlersMart - The Most Trusted Name in Bowling

*4:https://www.bowlingball.com/BowlVersity/bowling-ball-evolution

*5:Purple Pearl Urethane – HammerBowling

*6:LEGEND パープルパールウレタン

*7:United States Bowling Congress:実質のテンピンボウリングの統括団体

*8:日本のアマチュアのボウリング団体。国体を主催したり、ナショナルチームを送り込んだりしている

*9:https://www.aichi-jbc.com/pages/195/detail=1/b_id=811/r_id=3037/

*10:BOWL.com | USBC Statement on Purple Hammer Hardness

*11:英語だと"reactive resin"

*12:もっというなら規定にない限りはそれすら守らなくてもいい