香川のアレ

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の『ネット・ゲーム依存症対策条例訴訟の主な争点』の図がどちらかのサイドにに意図を曲げずにちゃんとまとまっていることを前提に話を進めたい。
こういう時ね……日頃の行いが悪いとね……なんでもないです

論点1:条例の根拠

「ネット・ゲーム依存症がない」という原告側の主張はさすがに通らんと思う。実際、「ネットやゲームに依存している人」はいるわけで、「ネット・ゲーム依存症がない」というのはさすがに言い過ぎである。仮にICD-11に「ネット・ゲーム依存症」が収録されなかったとしても、それは単に病名をつける根拠がないだけの話で「ネット・ゲーム依存症がない」というのはさすがに言い過ぎである*1

一方で被告側はさらに酷くて、「専門の治療機関があればいい」「科学的根拠は必ずしも必要ない」の2点が根拠。これを根拠にされるのはとても困る。なぜならこれが通ってしまうと科学的根拠がない治療に対しても専門の治療機関を用意してしまえば、どんな医療も正当な医療として自治体が認めることができるということだ。つまり「エセ医療に対しても自治体がお墨付き」を与えることができると暗に言っているようなものである。

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「「反ぬいぐるみ性人格障害*2の治療施設を作りました! 県からの補助金付きだぞ!」」
なんてこともやろうと思えばできる、香川県ならね

これって真っ当な医療関係者からするとすごく迷惑な話で、例えば今流行りの「反ワクチン」や前から問題になっている「ホメオパシー」とかに対して香川県から「お墨付き」が与えられる可能性があるというわけだ。明確な科学的根拠はなくても専門家と称する人はいるわけで、その専門家と称する人が主張すれば全部通るというのであれば「反ワクチン」や「ホメオパシー」にだって「お墨付き」を与えないとと筋が通らないのである。

ある一定レベル*3の科学的根拠のないものに対して「お墨付き」が与えられる可能性が起こりうるという現象に対して医療関係者はこの案件にはキレていいと個人的には思う。

論点2:人権侵害の有無について

これは原告の通りである。「家庭の問題」としてきちんとコミュニケーションを取るべき問題であり、それは「家庭で決めるべき」ことである。

香川県側については大いに批判されるべき内容である。

家庭内の話し合いの目安を定めた努力目標にすぎない。そもそも幸福追求権などは基本的人権とは言えず、人権侵害はない

特に後半部分がインターネット界隈では荒れている。日本国憲法第13条なんか糞食らえと言わんばかりの主張には頭を抱えるしかない。ちゃんとした弁護士がついたのだろうか? と不安になるレベルだ。

とはいえ日本国憲法第13条で認められた幸福追求権は無制限に認められるものではない。

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「やよいのクローンをたくさん作ってやよぺろランドを作ろう!」
「私ももちょのクローンをたくさん作ってもちょランドを作ります。ついでにゆきよと空と南に【施し】をしてメスペットにします」

なんてことは一般に認められない。
それは日本国憲法第13条の条文には

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

とあり、「公共の福祉に反する」場合は個人の幸福追求権が認められないからである。

では、今回の事案は公共の福祉に明確に反しているだろうか?
多分、反していない。

まず、罹患率が不明だ。また、インターネットやゲームという毎日接しているものの割には罹患率はとても低いと考えられる。放置しておくことで罹患率がすごく高く社会に影響をきたすというエビデンスがあればまだ良いのだろうが、現状存在していないため「公共の福祉に反する」とは言い難く、むやみに個人の人権を制限すべきではないと考える。

となると彼らは公共の基準として「パブリックコメントの結果」をあげるだろう。しかし、あのパブリックコメントの有効性については甚だ疑問に残る。

「アリアミンゴスたちとその手下たち、合計いっぱい人に聞きました。ミンゴスさんのお胸はたわわだと思いますか?」

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「「たわわだぞ! 爆乳のおっぱいぷるんっぷるんっだぞ!」」
「「大きいですよ。むちゃくちゃ大きいですよ! すごいすごい大きいですよ」」

支持者を何人集めてスパムのように数を送信したところで、結果にバイアスしかないわけで、これをもって世論だとか公共だというのはさすがに無理がある。真っ当な調査方法で調査したものではない以上、「信者の声がデカい」以外の結論を導くことは難しい。

他に何か公共性を主張するための論拠を考えてみたが思い浮かばなかったので多分「ない」のだと思う。
公共の福祉に反していない以上、個人の幸福追求権が認められて然るべきである。

まとめ

原告側、被告側とも医学的妥当性を検証して争うのは悪手のように思える。どちらのサイドにもおそらく公衆衛生の専門家がおらず、素人のインタネッツ議論の域から出ていないように感じられる。裁判の戦略としては個人の幸福追求権をベースに攻めていくのが彼らの手札から見た無難な選択であろう。
もし、どうしても医学的な何かを付け加えたいのであれば、「罹患率や罹患数が希少もしくは不明な疾患に対してポピュレーションストラテジーに則った予防策を行政主導で行い、個人の人権に制限を課すことへの是非」を問うことぐらいであろうか?
いずれにせよ、香川県側のやりかたが負けるために裁判をやっているように見えるくらいにあまりにもお粗末すぎるのでもうちょっとまともにしてほしい。やはり、県としてもおかしいとは思っているが、長年の功労ある議員のために仕方なく条例を作らされ、色々圧があって仕方なくやってるということなのだろうか? であればまだ香川県にも救いがあるように見えるが……どうなんですかね?

*1:だたし、WHOでは「Addictive behaviours: Gaming disorder」とあり、あくまでも依存ではなく嗜好として扱っている

*2:「今は人格障害ではなくパーソナリティー障害とするのが正しいのでは?」と聞いてみたところ、「ぬいぐるみさんへの畏敬が足りないのは、そもそも人格に問題があるので人格障害で問題ない」とのこと。アッハイ

*3:少なくとも臨床研究であればメタアナリシスがやれるくらいには根拠は必要だと個人的には思います